【辛味の科学】トマトでカプサイシンは合成できるの!?

トマトはカプサイシンを合成することができるのか?

とまと トマト

 トマトとトウガラシは同じナス科の植物で、トマトはナス科ナス属であるのに対し、トウガラシはナス科トウガラシ属に分類されています。属は違えど、トマトとトウガラシは遺伝的にかなり近縁で、私たち人間でいう親戚の関係と言ってもいいでしょう。

 過去の研究によると、もともとトマトとトウガラシは同一の祖先をもち、およそ1900万年前に遺伝的に分化したと考えられています。このため、現在でもトマトとトウガラシは共通して12本の染色体をもっていたり、トマトとトウガラシで、相同な遺伝子が保存されていたりと、非常に共通点が多いと言えます。では、トウガラシの仲間であるトマトは、カプサイシンを合成できるのでしょうか?

 結論から述べると、通常のトマトはカプサイシンを合成することができませんが、近年のバイオテクノロジー技術を駆使すれば、トマトでもカプサイシンを合成出来る可能性があります。

 本記事ではなぜトマトがカプサイシンを合成することができないのか?また、どのようにすればトマトでカプサイシンを合成することができるのか?について科学的に解説していきたいと思います。

トマトにはカプサイシン合成に必要な遺伝子がそろっているが働いていない

トマトのカプサイシン合成遺伝子は働いていない

 これまでの植物ゲノム研究によると、トマトとトウガラシのゲノム情報(DNA配列情報)を比較した結果、トウガラシが持っているカプサイシン合成遺伝子がトマトにも同様に存在することが明らかにされました。つまり、トウガラシと同様、トマトにもカプサイシンを合成するのに必要な「設計図」がしっかりと用意されているのです。

 しかし、トマトではカプサイシン合成遺伝子がすべて揃っているのにも関わらず、それらが発現していない(働いていない)ため、カプサイシンが合成されません。

 生物は遺伝子の配列情報を持っているだけでは無意味で、その遺伝子から転写・翻訳を経て、タンパク質が合成され、そのタンパク質が代謝(生体内の化学反応)を担うことではじめて、「遺伝子が機能した(働いた)」と言えるのです。つまり、トマトはカプサイシンを合成するための「設計図」はもっているけれど、その設計図をもとにカプサイシンを合成することができないということです。

カプサイシン合成遺伝子が働けばトマトでもカプサイシン合成が可能

 一方、カプサイシン合成遺伝子(設計図)が、しっかりと働けば、トマト果実内でもカプサイシンを合成出来ると考えられています。

 少し専門的な話になってしまいますが、遺伝子が働くためには、その遺伝子の塩基配列情報が、mRNAに転写されるというプロセスが必要です。このプロセスは遺伝子のプロモーターという領域に、「RNA合成酵素」が結合することで、開始されます。しかし、トマトの場合は、そのプロモーター領域の塩基配列がトウガラシとは異なり、「RNA合成酵素」が様々な理由から結合せず、転写がうまく行われないため、カプサイシンが合成されないものと考えられます。

 ただ、トマトはカプサイシン合成に必要な「設計図」自体は持っているため、もしも、トマトのカプサイシン合成遺伝子のプロモーター領域に変異を与え、それらの遺伝子を発現させることができれば、トマトでもカプサイシンを合成できる可能性があります。

ゲノム編集技術を用いてトマトでカプサイシンを合成することは可能か?

ゲノム編集技術とは?

 ゲノム編集技術とは、ゲノム上の任意の塩基配列に変異(欠失や挿入)を引き起こすことができるもので、近年の遺伝子研究や品種改良において注目されている技術のひとつです。我々は自然界で生じる、DNA突然変異の蓄積を利用して、遺伝法則を調べたり、品種を改良したりしてきましたが、これには非常に時間がかかるという問題がありました。しかし、ゲノム編集技術を用いることで、意図的に遺伝子を改変することができるため、遺伝研究や品種改良を短時間で効率的に進めることが出来ると言われています。

ゲノム編集を用いた辛いトマト作出への挑戦

 先ほど述べたとおり、トマト自身がもつカプサイシン合成遺伝子を働かすことができれば、トマト果実内でカプサイシンを合成することが可能であると考えられています。近年の研究では、ゲノム編集を用いてトマトの遺伝子を改変し、カプサイシンを合成するトマト、通称「Hot Tomato」を作出しようとする動きがあります。

「35Sプロモーター」の挿入による「辛いトマト」の作出

 具体的な方法の一つとして、「35Sプロモーター」の利用があります。「35Sプロモーター」とは、植物の遺伝子組換え実験等でよく利用される、ウイルス由来のプロモーターのことで、発現させたい遺伝子の上流に「35Sプロモーター」を挿入すると、その遺伝子が恒常的に発現します。もし、トマトにおいて機能していないカプサイシン合成遺伝子のプロモーターに、ゲノム編集技術を用いて「35Sプロモーター」を挿入することができれば、これまで働いていなかった遺伝子が働くため、カプサイシンを合成出来る可能性があります。

 イメージとしては、カプサイシン合成遺伝子の「仕事スイッチ」を、「35Sプロモーター」の挿入によって「ON」にするという感じです。この方法が上手くいけば、カプサイシンを合成する「辛いトマト」を作出することができると考えられています。現状として「辛いトマト」は作出されていませんが、今後の研究動向に目が離せません。

【参考文献】・Capsaicinoids:Pungency beyond Capsicum, Naves et al. 2018

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