ソバはなぜ花の構造が同じだと受粉できないの?―異形花型自家不和合性を制御するS遺伝子座の正体とは?―

ソバの花にはめしべの短い「短柱花」とめしべの長い「長柱花」があり(下図)、同じ構造の花同士(短柱花×短柱花 or 長柱花×長柱花)では受粉が出来ないことが知られています。

ソバは、一つの植物個体のなかに、短柱花と長柱花が混在することはなく、どちらか一方の花に統一されているため、自分自身では受粉できないことが知られています(下図)。これは「異形花型自家不和合性」と呼ばれており、詳しくは下記の記事をご覧ください。

しかし、ソバはなぜ花の構造が同じ者同士では受粉が出来ないのでしょうか?

本記事ではその答えを明らかにすべく、ソバの「異形花型自家不和合性」を制御するS遺伝子座とその正体について最新のレビュー論文をベースに解説していきたいと思います。


【異形花型自家不和合性に関与するS遺伝子座】

同形花同士の受粉が出来ない説明を始める前に、まずはソバの異形花型自家不和合性に関与する遺伝子座からみていきましょう。

ソバの異形花型自家不和合性はS遺伝子座と呼ばれる単一の遺伝子座(DNA上の領域)によって支配されていることが古くから知られています。

詳しくは前回の記事で解説しているため、ここでは簡単な説明にとどめますが、S遺伝子座はめしべ(花柱)の長さを支配していて、上図のようにS遺伝子座を1セットもつ個体はめしべの長さは短くなります(短柱花になる)。一方で、S遺伝子座を一セットも持たない個体はめしべが長くなり(長柱花になり)ます。

※S遺伝子座を2セットもつ個体(S/S)も短柱花になることが予想されますが、このタイプは自然界に存在していません。

また、この短柱花個体と長柱花個体は1:1の割合で存在していて、これらが交配すると子世代では上図のような遺伝子セットとなり、短柱花個体(S/null)と長柱花個体(null/null)が再び1:1の割合で得られます。ソバは同形花同士では交配が出来ないため自家受粉は行われず、このような短柱花個体(S/null)×長柱花個体(S/null)の交配が次から次の世代へと繰り返して行われます。


【花の構造が同じだとなぜ自家受粉が阻害されるの?】

ここまでの話で、遺伝子座はめしべの長さに関与する遺伝子座であることは分かりました。しかし、「同じ花の構造の花同士では受粉が出来ない」という現象のメカニズムをめしべの長さだけで説明するのには無理があります。

ここからは、S遺伝子座の真の正体について解説していきたいと思います(前置きが長くなってしまい恐縮です泣)。


―S遺伝子座の正体とは?―

実のところ、ソバの遺伝子座にはどのような遺伝子が存在しているのかについては現在でも明確には明らかになっていません。

しかし、ソバと同じ異形花型自家不和合性を示すサクラソウにおける研究から、遺伝子座には、G遺伝子と呼ばれるめしべの長さを短くする遺伝子の他に、以下2種類の遺伝子が存在しているのではないかと言われています(実際は4種類だが、今回は2種類だけ解説します)。

・Is 遺伝子:めしべ側で、短柱花から来た花粉を認識して、花粉管の伸長を阻害する遺伝子

・I 遺伝子:短柱花から来た花粉であることを示す遺伝子

ぬ?これだけ見てもなんのこっちゃ?という感じなので、詳しく解説していきたいと思います。

まず、めしべの短い短柱花は、めしべの長さを短くするG遺伝子とセットで、Is遺伝子とIp遺伝子を持っています(上図)。これらは非常に近い位置に存在していて、遺伝子と遺伝子の間で組み換えが起こらず、あたかも一つの遺伝子としてみることができ、これら3遺伝子の遺伝子型をGIspと表すことにしましょう。

詳細なメカニズムは不明ですが、遺伝子を持っている個体は、遺伝子を持つ個体から来た花粉をめしべで認識し、花粉管の伸長を阻害すると言われています。このため花粉がめしべについても花粉管が伸長できず、受精には至らないのです。よって、短柱花個体(GIsp)では、s遺伝子と遺伝子の両遺伝子をもっているため、上図のように自身の花粉で受精することは出来ないうえ、他個体であっても短柱花からの花粉は拒否され、受精には至りません。

一方、めしべの長い長柱花は遺伝子が存在していないうえ、s遺伝子についても存在していない(nullである)、あるいは機能が変化した対立遺伝子isiをもっていると言われています。本記事では仮に、長柱花個体の遺伝子型をgisi遺伝子とすることにします。

ここで短柱花個体(GIsp)のめしべに、長柱花個体(gisi)の花粉が付く場合を考えてみましょう。先ほど説明した通り、短柱花個体はs遺伝子を持っていますから、遺伝子をもつ短柱花個体からの花粉は拒否されます。しかし、長柱花個体は遺伝子を持たない(あるいは機能が変化したip遺伝子をもつ)ため、その花粉は短柱花のめしべでは認識されず、正常に花粉管が伸長し、受精に至ります。

また、これと反対に長柱花個体(gisi)のめしべに短柱花個体(GIsp)の花粉が付く場合も同じで、長柱花は遺伝子を持たないため、遺伝子をもつ短柱花個体からの花粉がやってきたとしても長柱花はこれを認識することが出来ず、花粉管が正常に伸長して受精に至ります。

一方で、長柱花個体(gisi)同士の交配については、遺伝子が存在していない(nullである)と仮定すると、めしべ側で花粉を認識することが出来ないため、どのような花形の花粉であっても受精が出来るように思えます。しかし、実際には長柱花個体(gisi)同士の交配が出来ないことを考えると、長柱花個体にはIs/Ip遺伝子の対立遺伝子is/ipがあり、isの存在が長柱花由来の花粉(ip)の認識を可能にし、受精を阻害している可能性があります。


―まとめ―

ここまでの仕組みをまとめると上図のようになります。このようにソバはめしべの長さをコントロールする遺伝子とともに、花粉の認識・花粉管伸長に関わる遺伝子と遺伝子によって和合・不和合を制御しているのです。

【注意】現在でもソバのS遺伝子座の正体は明らかにされていません。上記説明はサクラソウがモデルとなっているため、ソバでは多少異なる可能性があります。


参考文献:Matsui and Yasui. (2020) Buckwheat heteromorphic self-incompatibility: genetics, genomics and application to breeding

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