AI(人口知能)を活用した「梨」の品種改良に関する研究

AI(人工知能)を活用した「梨」の品種改良に関する研究について

 近年、AI技術が様々な分野で導入されています。品種改良についても例外ではなく、AIの一種である機械学習技術が利用されつつあります。本記事では、その一例として機械学習を利用した「梨」の品種改良に関する研究についてご紹介したいと思います。

品種改良に参入する機械学習技術について

 機械学習とは、コンピューターが学習したビックデータに基づいて、物事の予測や分類を行う技術のことです。品種改良では「交配」と「個体選抜」を繰り返すことで、その作物の遺伝的改変が行われるわけですが、これらは膨大なデータを「統計的」あるいは「直観的」に処理するプロセスであるとも言えるでしょう。例えば、「多収性(収量が多いこと)」が品種改良の目標となる場合、まず、収量諸形質の調査結果に基づき、「統計的」に収量の多い個体が選抜されていきます。また、これに加え、プロの育種家による総合的評価に基づいた「直観的」な選抜も同時に行われます。このように、品種改良は「統計的」あるいは「直観的」に非常に多くのデータを取り扱う分野であり、これらを得意とするAIを用いることで、効率的な品種育成が実現する可能性があります。

「ナシ」の品種改良は大変

 本記事で紹介する機械学習を駆使した「ナシ」の品種改良についてですが、この研究の背景には「ナシの品種改良の大変さ」があり(私信)、これらを改善するために研究がはじめられたのではないかと考えられます。ナシの品種改良は以下の点で大変であると考えられます。

①ナシは果樹であるため、世代更新に時間がかかる

 さきほども述べましたが、品種改良は多くの場合、「交配」と「個体選抜」の繰り返しです。このため、世代更新の速さは、品種育成に要する時間を大きく左右します。果樹のひとつであるナシは世代更新に時間がかかるため、その分、品種の完成が遅くなってしまうことから、野菜などの品種改良と比べると、大変であると考えられます。

②ナシは自家不和合性形質をもつため、自家受粉が出来ない

 自家不和合性形質とは、自身の花粉では受精が出来ず、受精時に他者の花粉を必要とする形質で、バラ科植物の一つであるナシは自家不和合性形質をもちます。品種を育成するには、DNAの配列情報を個体間でそろえ、形質を均一化していく(そろいをよくする)必要があります。これには自家受粉を繰り返すのが最も手っ取り早いのですが、自家不和合性植物の場合は自家受粉ができず、集団(多数の個体)の世代更新と選抜を進めながら、「そろい」を良くしていく必要があり、労力を要し、大変です。

機械学習を利用した「ナシ」交配後代の形質予測

 岩田ら(2013)の研究では、機械学習を用いて、異なるナシ品種間の交配後代の形質を予測するという実験が行われました。この研究では、日本の主要品種である「幸水」よりも果実が大きく、かつ栽培期間が短い品種を育成するというコンセプトのもと、ナシの「果実重」と「収穫までに要する栽培期間」という2形質に焦点をあて、実験が実施されました。具体的には以下のような流れで実験が行われています。

  1. ナシ84品種のDNA配列情報を調査する(厳密には、DNAの全配列を調査しているのではなく、ゲノム全体に偏在する断片的DNA配列の品種間差を調べています)
  2. ナシ84品種の「果実重」と「収穫までに要する栽培期間」を調査する
  3. 機械学習により、上記のDNA配列情報と形質データをコンピューターに学習させる
  4. DNA配列情報から「果実重」と「収穫までの栽培期間」を予測する関数(モデル)を学習データに基づいて構築
  5. 完成した予測モデルをもとに、交配する両親のDNA配列情報から交配後代の「果実重」と「収穫までの栽培期間」を予測

完成した予測モデルを用いることで、両親のDNA配列情報をもとに、その交配後代の「果実重」と「収穫までに要する栽培期間」を高い精度で予測できることが分かりました。また、このモデルによると「どのような両親を組み合わせれば、どれくらいの確率で『幸水』よりも果実が大きく、栽培期間が短い個体が得られるのか」といった予測も可能になりました。これにより、有効な交配親の選定が出来るようになったことに加え、「優良な交配後代を得るために、どれくらい多くの個体を展開(栽培)すればよいのか」ということまで分かるようになったのです。例えば、親Aと親Bを交配すると、1%の確率で「幸水」よりも優れた個体が得られるという予測が行われた場合、5個体の優良な後代を得るには500個体の後代を展開する必要があるといった想定ができるようになったのです。

このように、品種改良に機械学習を導入することで、これまで人間の「勘」や「経験」に頼るしかなかったプロセスを高い精度で補完できる可能性があります。AIと品種改良に関する研究は現在も進行中で、今後の新たな研究結果に目が離せません。あぁ、トウガラシでもやりたいなぁ。。。。。

【参照】Genomic prediction of trait segregation in a progeny population: a case study of japanese pear (Pyrus pyrifolia), 20013, Iwata et al.

ゲ ノ ミックセレクションおよびハイスループットフェノタイピング を用いた作物育種の効率化・ 高速化, Guo et al. 2018

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