【辛味の科学】「種の無い‘ししとう’は辛い」は本当だった

「ししとう」の素焼き

日本在来の甘味トウガラシである「ししとう」。日本人ならば、知らない人はいないでしょう。そして、一度は非常に辛い果実に遭遇して「辛っ!」と驚いた経験があるのではないでしょうか。このような「ししとう」果実の辛味発生のメカニズムについては、現在も解明されていません。

一方で、「種の無い‘ししとう’は辛い」ということは古くから経験的に知られており、特に「ししとう」の種無し果は「石実」と呼ばれ、強い辛味を持つことが知られていました。そのようななか、今年(2020年)、信州大学の研究グループが「ししとう」に関する新たな研究論文を発表し、種の無い「ししとう」果実では、辛味の変動が起こりやすいことが明らかにされました。

本記事では『「種の無い‘ししとう’は辛い」は本当だった』と題して、その真相について科学的な裏付けとともに説明したいと思います。

人工的に「ししとう」果実の無種子化を誘導することで辛味が変動しやすくなる

Kondoら(2020)の研究では、種子の有無によって「ししとう」の辛味がどの程度変化するのかを調べるために、図1のように植物ホルモンを用いて「ししとう」の無種子果実が作出されました。そして、通常の放任受粉によって得られた有種子果実と比較して、無種子果実の辛味の強さがどの程度異なるのかについて、調査が行われました。その結果、無種子果実の辛味強度(カプサイシン含量)は有種子果実の、約3倍強いことが明らかになりました。この結果から、「ししとう」では無種子化によって、辛味が強くなりやすくなることが明らかになりました。したがって、古くから知られてきた「種の無いししとうは辛い」という経験知は決して間違いではなかったのです。

‘ししとう’の無種子化はカプサイシン合成遺伝子の働きを活性化する

Kondoら(2020)の研究ではさらに、人工的な「ししとう」果実の無種子化により、カプサイシン(トウガラシの辛味成分)合成に関わる遺伝子の発現(働き)がどのように変化するのかについても調査が行われました。実験の結果、カプサイシン合成に関与する複数の遺伝子の発現量が無種子化によって増加することが明らかになりました。遺伝子発現量は遺伝子の「働きの強さ」を示す指標の一つであり、一般的に発現量が多いほど、その遺伝子の働きが活発であるとされることから、今回の遺伝子発現量の増加は、カプサイシン合成に関わる遺伝子の働きが無種子化によって促進されたことを意味します。この結果から、無種子化が何らかの理由で、カプサイシン合成に関与する遺伝子の働きに変化を与え、その結果、果実内の辛味に変化が生じたと考えられました(図2)。

なぜ「無種子化」が辛味の変動を引き起こすのか?

残念ながら、無種子化がなぜ「ししとう」の辛味変動を引き起こすのかについては未だ謎のままです。これは私の個人的な予想に過ぎませんが、「種子の減少」が繁殖の失敗につながるリスクの一つであるという点に、この謎を解くヒントがあるのではないでしょうか。カプサイシンは齧歯類(げっしるい)等の動物から、自身の果実を守るためにトウガラシが進化の過程で獲得した生存のための戦略物質であると言われています。種子が少ない果実は、種子が多い果実に比べて繁殖の成功率が相対的に低下するため、防衛物質であるカプサイシンを大量につくることで、そのリスクを回避しているのではないでしょうか。

【参照】 Parthenocarpy Induced Fluctuations in Pungency and Expression of Capsaicinoid Biosynthesis Genes in a Japanese Pungency-variable Sweet Chili Pepper ‘Shishito’ (Capsicum annuum) . Kondo et al., 2020

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