品種改良に重要な唐辛子の雄性不稔形質とは?

雄性不稔形質は「おしべ」や「花粉」ができない形質

 雄性不稔形質(ゆうせいふねんけいしつ)とは、花器官の「おしべ」が形成されない、あるいは「おしべ」が形成されたとしても、正常な花粉が形成されない形質のことです。トウガラシでは、ひとつの花に「おしべ」と「めしべ」が共存する「雌雄同花(しゆうどうか)」という花器官の構造がみられます。もし、トウガラシが雄性不稔形質を示した場合、上写真のように「おしべ」が正常に形成されないため、受精が行われず、果実ができません。

この事実だけみると、雄性不稔形質は不要で、厄介な形質であると思われるかもしれません。確かに、生物学的にみると雄性不稔形質をもつ個体は、子孫を残す競争で不利になることでしょう。しかし、品種改良ではこの雄性不稔形質が大活躍するのです。

雄性不稔形質は品種改良を行う上で有用な形質

品種改良のなかで行われる交配では「除雄(じょゆう)作業」が大変

 品種改良の基本は系統間の交配であり、現場では盛んに交配作業が行われています。交配作業では、父本の花粉を、母本のめしべにつける必要があるのですが、単に花粉をつければ良いというわけではありません。交配を行う際は、母本が自家受精しないよう、母本のおしべを除去する必要がありあす。この作業は「雄蕊(おしべ)」を「除去する」ということで「除雄(じょゆう)」と呼ばれていますが、多くの時間と労力を使います。

具体的にトウガラシで話をすると、「除雄」はピンセットを用いて行いますが、花がそれほど大きくない上(野菜の花の中では特別小さいというわけではありませんが)、めしべもおしべも折れやすく、かなりの神経を使います(私は息を止めて作業する時があります笑)。また、時間もかかかり、大変です。

雄性不稔形質は「除雄」作業を省略できるという点で有用

 雄性不稔形質をもつ個体では花粉が出来ないため、それらを母本にすれば、「除雄」を行わずに、交配作業が進められます。先ほども述べましたが、「除雄」には多くの労力と時間を要することから、これらの難点を解決できるという点で、雄性不稔形質は非常に有用であると言えます。特に、F1種子(異なる両親を交配してできた1代目の種子)の作出には、トウガラシに限らず、様々な野菜で雄性不稔形質が使われています。トウガラシ属植物に関して言うと、市販のピーマンやパプリカはほどんどがF1品種であるため、これらの育成には雄性不稔形質が欠かせません。

トウガラシの雄性不稔形質を支配するms遺伝子とその利用について

 ms(male-sterile)遺伝子とはトウガラシの雄性不稔形質を支配する遺伝子のことで、これまでに、およそ20種類ほどの遺伝子が報告されています。ms遺伝子は、そのほとんどが劣性遺伝子であり、優性遺伝子のように、その遺伝子自身が働いて雄性不稔形質を引き起こすわけではなく、もともと、正常に機能していたms遺伝子の働きが失われ、その結果として、おしべや花粉が形成されなくなるという感じです。現在、ピーマンやパプリカのF1品種開発で利用される雄性不稔形質の多くは(すべてではありません)、このms遺伝子によるものであることが知られており、品種改良の現場では、ms遺伝子のDNAマーカーが雄性不稔形質の目印として用いられることがあります。

【参照】・Fine mapping of the genic male‑sterile ms1 gene in Capsicum annuum L., Jeong et al. 2018

核遺伝子型雄性不稔性を有する‘ピーマン中間母本農 1 号’の育成とその特性, 松永ら, 2007

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