【唐辛子の科学】栽培環境と辛味変動の関係

トウガラシの辛味は栽培中の環境で大きく変化する

 トウガラシの辛味の強さは品種によって大きく異なりますが、同じ品種であっても、栽培環境の変化で辛味が大きく変動してしまうことがあります。これは、トウガラシを栽培したことがある方ならば、だれもが経験的に知っていることなのではないのでしょうか。本記事では、トウガラシの栽培環境と果実の辛味変動の関係について、私の経験談ではなく、現在の研究動向を踏まえてお話ししたいと思います。

辛味変動を引き起こす栽培環境について

 栽培環境と辛味変動の関係については古くから研究が行われており、辛味変動を引き起こすとされる栽培条件がいくつか明らかにされています。

①水分ストレス

 辛味変動と水分ストレスの関係については多くの研究者が調査を行っています。正直なところ、調査結果は研究によってバラバラなのですが、全体の傾向として、水分が少ない環境ほど、果実内のカプサイシン含量が増加し、辛味が強くなるようです。

②気温

 気温については、高温が辛味変動を引き起こすとの研究結果があります。しかし、品種間差が大きく、高温で辛味が増加する品種もあれば、反対に辛味が減少してしまう品種もあるようです。ちなみに、「ししとう」では、夜間の高温が辛味の上昇を引き起こすと言われています。

②窒素・カリウム施肥量

 肥料の量も辛味変動を引き起こす一因であると言われています。ある研究では、窒素施肥量が多いほど果実内のカプサイシン含量が増加し、辛味が強くなると言われています。また、カリウム施肥量を多くした場合も、辛味変動が生じるようです(品種によってカプサイシンの増減パターンは異なりますが….)。

④日長・LED電球

 日長については、辛味の無い「ししとう」を使用した研究が行われており、明期(昼間)が長すぎると辛味果の割合が増加するとの報告があります。また、LED電球については、トウガラシの生育に、蛍光灯を使用するよりも、青色LEDを使用したほうが辛味が強くなるという研究結果があります。

⑤その他

 ①~④の栽培条件以外にも、「標高」「CO2濃度」「湿度」がトウガラシの辛味変動に影響をおよぼすと言われていますが、研究結果が少ないため、さらなる調査が必要であると言えます。

 

栽培環境と辛味の変動の関係は未だ不明な点が多い

はてなマークを浮かべる女性の顔のイラスト

 過去の研究では、上記のような栽培条件が辛味変動を引き起こすと報告されています。しかし、それらがトウガラシの辛味変動に、どの程度の影響をおよぼすのかといった詳細な部分までは明らかにされていません。これは、栽培環境に起因する辛味変動のメカニズムが非常に複雑であるためと考えられますが、それによって生じる以下のような「調査の難しさ」がこの手の研究にはあるのです。

① 同一条件で栽培試験をしても、辛味の変動パターンが品種間でバラバラ

 これまでの研究論文を読んでいると、栽培環境が引き起こす辛味の変化が品種によってバラバラで、一貫した結果が得られていないという印象があります。例えば、高温下でトウガラシを栽培すると、辛味が強くなる品種がある一方で、逆に辛味が弱くなる品種もあり、高温と辛味変動の関係について、明確な答えが得られないのです。また、このような品種間差をどのように解釈するのかが難しく、これらが研究を進める難しさの一つになっている可能性があります。

② 理想的な実験系を構築することが困難

 この手の研究には、必ずと言っていいほど、「実験系構築の難しさ」があります。栽培環境と辛味変動の関係を調べるには、その実験に関係のない環境要因を排除する必要がありますが、現実的に、これは不可能です。例えば、高温と辛味変動の関係を調べるには、潅水量や湿度といった気温以外の環境条件を一定にする必要があります。これは、人工気象室といった設備を使用すれば実現できるかもしれません。しかし、実際のところ、数多くの品種や個体を大量に調査するうえで、人工気象室を用いることは現実的ではなく、どうしても圃場や温室内での栽培実験を余儀なくされます。特に、圃場といった屋外での実験は、天候等の影響で、栽培環境を一定にすることが難しく、目的とする環境要因の影響だけを調べることは、事実上困難であると言えるでしょう。環境に対して非常に敏感に反応する辛味形質を詳しく調べるには、厳格な環境制御が必須であると言えますが、現実的には難しいのです。

【参照】・Capsaicinoids:Pungency byond capsicum, Naves et al. 2019.

・Biochemistry and molecular biology of capsaicinoid biosythesis: recent advances and perspectives (Arace-Rodriguez et al. 2019)

・ 蛍光灯連続光下における暗期挿入および暗期の温度がシシトウ果実の辛味発現に及ぼす影響,Murakami et al. 2006.

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