【唐辛子の進化学】なぜ唐辛子はカプサイシンをつくるようになったのか?

カプサイシンは唐辛子の進化の産物

 トウガラシは南米大陸原産の野菜で、祖先はトマトと同じであった言われています。トウガラシとトマトが遺伝的に分化したのは、今からおよそ1900万年前であると言われており、誕生して間もないころのトウガラシには、カプサイシンを合成する能力がなく、辛味がなかったと考えられています。そして、その後、トウガラシの生息域が中南米全域に広まる過程で、トウガラシはカプサイシン合成能力を獲得したと言われており、カプサイシンはトウガラシの進化の産物と言えるでしょう。本記事ではトウガラシがなぜカプサイシンを合成するようになったのかを、科学的知見をもとに解説したいと思います。

トウガラシは「鳥」だけに果実を食べさせるため、カプサイシン合成能力を獲得した

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 トウガラシがカプサイシン合成能力を獲得した理由については様々な説がありますが、本記事ではその中でも有名な、「唐辛子が鳥に種子を運んでもらうために、カプサイシン合成能力を獲得した」という説をご紹介したいと思います。

トウガラシは「鳥」を種子伝播の媒介者として利用するためにカプサイシンを合成した

 これまでの研究によると、トウガラシは、空を飛ぶことができる「鳥」を種子繁殖の媒介者として利用するために、カプサイシンを合成するようになったと言われています。では、なぜ「鳥」を利用するためにカプサイシンが必要なのでしょうか?

これは、カプサイシンという物質がトウガラシを「鳥」だけに食べてもらうために、非常にうまく機能していているからです。カプサイシンは「鳥」以外の動物には、毒性を示すのにもかかわらず、「鳥」には毒性を示さないことが知られており、トウガラシがカプサイシンをつくることで「鳥」だけに、その果実を食べさせることができるのです。ちなみに、「鳥」がカプサイシン特有の痛覚刺激を感じないのは、カプサイシンの刺激を感じるバニロイド受容体の機能が「鳥」では失われているためであることが明らかにされています。

一方、本説を支持する根拠としては、以下のような知見や研究結果があります。

①トウガラシをビデオモニタリングした結果、「鳥」だけが果実を捕食していた

 アリゾナとボリビアの2地域で、トウガラシ果実の捕食者のビデオモニタリングを行った結果、「鳥」だけがトウガラシ果実を捕食することが明らかになりました。これは、トウガラシが「鳥」だけに果実を食べさせるよう進化したという考えを支持しています。

②辛味の無いトウガラシであれば鳥以外の動物も捕食する

 辛味を持つトウガラシと、辛味の無いトウガラシをそれぞれ、マウスに与えた結果、彼らは辛味を持つトウガラシには手をつけず、辛味の無いトウガラシだけを食べることが明らかになりました。これは、マウスといった齧歯動物がカプサイシンを忌避することを示し、トウガラシがカプサイシンをつくることで、「鳥」以外の動物から食べられないようにしている、という考えを支持しています。

③カプサイシンは果実だけでしか合成されていない

 これまでの辛味研究から、カプサイシンは植物全体ではなく、果実内の種子が付着する、胎座・隔壁という組織でしか、つくられていないことが明らかにされています。これは、非常に間接的ですが、捕食されては困る果実だけを特異的に、カプサイシンをつくることで保護し、果実を「鳥」以外の動物から守るよう進化したという考えを支持しています。

トウガラシの種子伝播になぜ「鳥」が有利なの?

ヒヨドリ

 トウガラシが「鳥」を種子伝播の媒介者として利用するのは、「空を飛び、行動範囲が広い」という理由の他に、「鳥の消化能力が弱く、捕食されても種子生存率が高い」という理由があります。

 過去の研究では、「鳥の糞」に含まれる種子の発芽能力を調べる実験が行われています。その結果、「鳥の糞」に含まれる種子の発芽率は、通常種子の70-80%と高く、たとえ、「鳥」に果実を捕食されたとしても、次世代種子が発芽することは十分可能なのです。一方、ネズミのような齧歯動物の場合は、捕食されてしまうと、生存種子がほとんど残らないようです。このことから、「鳥」は単に「行動範囲が広い」というだけでなく、「捕食されたときの種子へのダメージが小さい」という点で、トウガラシの種子伝播の媒介者として優れていると言えるでしょう。

【参照】・A field test of the directed deterremce hypothesis in two species of wild chili, Levey et al. 2006

・Capsaicinoids:Pungency byond capsicum, Naves et al. 2019.

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