ナスの棘(とげ)の有無はどのように遺伝するの?

‘とげなし千両二号’から見出されたPl遺伝子座について

とげなし千両二号
 画像引用元:タキイ種苗株式会社 
https://www.takii.co.jp/CGI/tsk/shohin/shohin.cgi?breed_seq=00000692&hinmoku_cd=ANA&area_cd=5

 ナス(Solanum melongena L.)を育てたことがある人なら、へたの部分にある棘(とげ)が刺さって痛い思いをしたことがあるのではないでしょうか? このような栽培上の不都合を解消するため、‘とげなし千両二号’(タキイ種苗)や‘とげなし美茄子’(愛知県農業試験場)といった、様々な棘なしのナス品種が開発されています。 

ここで気になるのは、「ナスの棘の有無はどのように遺伝するのか?」ということです。 

本記事では‘とげなし千両二号’から明らかになった、ナスの棘の遺伝様式や、これらを制御しているPl遺伝子座について詳しく解説していきたいと思います! 

ナスの棘は刺状突起体(Prickle)と呼ばれる 

「棘(とげ)」と一口に言っても植物学的にはいろいろで、マツの葉のように葉が針のような形になってできる「葉針」や、トマトやキュウリにみられる毛、正確には毛状突起(トライコーム)がより粗く大きく変形した「刺状突起(Prickle)」などがあります。ナスの棘はこの「刺状突起」に該当し、葉や茎、がくの部分にみられます。 

ナスの棘 
画像引用元:はたけあそびねっと https://root-farm.net/photo/ashigara-20190517-nasu/

バラの棘

ナスの「棘なし」は単一遺伝子に支配され潜性(劣性)遺伝する

2020年に公開されたMiyatakeらの研究では、ナスの棘が無くなるという形質は潜性(劣性)遺伝形質であり、単一の遺伝子座に支配されることが明らかにされています。これについて実際の研究内容を踏まえて詳しく解説していきます。 

Miyatakeらの研究ではまず、棘のある‘LS1934’と、棘のない‘とげなし千両2号’の交配が行われました。そして、得られた子世代(F1)と孫世代(F2)の棘の分離を調べることで、棘の有無の遺伝様式が調べられました。その結果、以下2つのことが分かりました。 

① 棘ありナスと棘なしナスを交配して得られた子世代(F1)はすべて「棘あり」だった 

② 孫世代では、棘あり:棘なし=3:1の分離がみられた 

 これらの結果をみると、まず子世代では「棘なし」が現れなかったことから、「棘なし」は子世代で隠れてしまう形質、つまり潜性(劣性)形質であることが分かります。また、棘なし形質が孫世代でようやくあらわれ、しかもその分離比が「棘あり:棘なし=3:1」であったことから棘の有無が一つの遺伝子によって支配されていることが分かります(2遺伝子以上が関与する遺伝は分離比が3:1にはなりません)。これはメンデルが行ったエンドウの種子の形(丸orしわ)の遺伝様式と全く同じですよね。メンデルの法則について詳しく知りたい方はこちらの記事も参照してください 

Pl遺伝子座はナスの「棘なし」を支配する 

Miyatakeらの研究ではさらに、棘ありナスと棘なしナスとの交配で得られた孫世代(F2)を用いて遺伝解析が行われ、棘の有無を支配しているPlPrickle)遺伝子座が特定されました。本記事では遺伝解析の詳細は紹介しませんが、Pl遺伝子座はナスの第6染色体に存在しており、棘なしナスには、刺ありナスには無い独自のDNA配列(遺伝子タイプ)が存在していました。Pl遺伝子座の遺伝子タイプは棘の有無と完全に一致していたことから、当該遺伝子座が棘の有無を支配する遺伝子座であることが示されました。 

このようなDNA配列の違いが棘の有無にどのように影響を与えているのかについては未だ明らかではありませんが、一般的にはDNA配列の変異によって遺伝子の働きが変化し、棘をつくるために必要な酵素(タンパク質)の働きにも変化が生じることで、棘の形成に変化が生まれるものと考えられます。 

DNAマーカーを使えば、幼苗の段階で棘の有無を判別できる

上述の通り、棘なしナスのPl遺伝子座のDNA配列(塩基配列)は、棘ありナスのものと異なります。Miyatakeらの研究ではこの違いをもとに、DNAマーカーが開発され、DNAレベルで棘の有無を判別できるようになりました。 

DNAマーカーとは、コロナ検査でも用いられているPCRという技術を用いて、特定のDNA領域を増幅し、そのDNA断片の増幅サイズの違いなどを利用してDNA配列の差異を判別する技術のことです。Pl遺伝子座についても棘の有無によって、PCRによるDNA断片の増幅サイズが異なるため、Pl遺伝子のタイプを決めることが出来ます。 

これまでの品種改良では、交配によって得られた後代を実際に育ててみないと、棘の有無を知ることは出来ませんでしたが、これらのDNAマーカーの開発により、ナスの幼苗の段階で棘の有無を把握することができ、品種改良の効率化につながることが期待されています。 

参考文献:Miyatake et al., (2020) Fine mapping of a major locus representing the lack of prickles in eggplant revealed the availability of a 0.5-kb insertion/deletion for marker-assisted selection 

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